Focus On
平田伸行
ハナマルキ株式会社  
取締役 マーケティング部長 兼 広報宣伝室長
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シリーズ「プロソーシャルな距離」について |
2020年4月、緊急事態宣言のもと、多くの美容室・美容サロンは営業自粛や休業といった措置を余儀なくされた。自粛期間中、同社の取り組みから見えてきた業界の変化とは何だろうか。
「美容室の負担が少しでも軽くなるように、そのために僕らのできることをやろうということで、休業を選択された美容室は美歴を利用する可能性が低いので、お店が休業する期間の利用料を減免しました。ほかにも、お客様が来店しづらい状況で売上を作ることが出来るようにと支援策として、『美歴』を使ってもらっている美容室向けに、オンラインで前売りチケットの販売が可能な『チケット管理サービス』を無償提供しました(※無償提供期間は2020年4月30日から2020年5月31日まで)」
本来届けられるはずの価値をお客様に届けられない。そんな歯がゆい思いを抱える美容室のために、美歴はサービスを一部解放した。
すると、反響は予想外のものだった。
「休業期間って『美歴』は使われないだろうと思っていたんですが、実際にはむしろより使われていて。今だからこそ『美歴』を使い倒しますと、問い合わせを複数頂きました」
お客様の来店が減るから、カルテも必要なくなる。そうではなく、こんな時だからこそ「美歴」を通じてできることがあるのではないかと、各美容室は模索を始めていた。
「これは美歴の変わらないコンセプトでもありますが、お客様と繋がることが価値を生む。今回のコロナの影響で、それが再認識されることになったと思います。その結果、問い合わせは、コロナ以前よりも今の方が増えています」
お客様と会うことができない状況だからこそ、気軽なコミュニケーションを可能にするプラットフォームの存在価値が再認識されることとなった。「お客様と繋がること」。それを起点にして、今後美容師は新たな価値を届けられるようになっていくと鈴木は語る。
POINT ・ 美容師の価値は「お客様との繋がり」に |
02【新しい価値】ライフスタイルに寄り添う
変化の潮目にある美容業界。これからの時代、美容師はどんな新しい価値を提供できるのか。同社サービス利用企業の事例から、2つの変化の視点が見えてきた。
「たとえば、2~3年前から『トータルビューティ』が流行っているので、どの美容師さんもネイルやアクセ、ファッションなどをすごく学ばれているんですよね。そういうものって本来いつでも提案できるはずが、来店してもらわないと提案できない。アウトプットするものは持っているので、それを適切なタイミングで、適切な相手に届けることができれば、その美容師の価値はさらに高まります」
ただ髪を切ってもらうだけにとどまらず、美容全般を気軽に相談できる存在として認知される。それにより客単価が向上するだけでなく、口コミや紹介の増加にも繋がっているという。お客様にとってもはや美容室は髪を切るだけの場所ではないのだ。
「面白いデータが取れています。ある店舗が『美歴』の『チケット管理サービス*』というECの仕組みを利用して、1月で80万円売り上げているんです。美容のプロに提案されることってやっぱり大きいんですよね。『自分専用の美容師さん』だからこその距離感、関係性をしっかり作ることによって、美容師が提供出来る価値を広げ、美容師自身の価値をもっと高めることができる(*ヘアカットなどの前売りチケットや、サロンオリジナルシャンプーなどの商品、簡単に生成できる専用Webサイトでオンライン販売できるサービス)」
美容師が本来持っている価値を、仕組みを提供することで広く行き渡らせる。店舗での対面コミュニケーションだけでなく、オンラインで創られ育てられる接点が、それを支えるのだ。
「美容師さんってすごいんですよ。車を売る美容師さんもいるくらいで。ちょっと田舎の方なんですけど、お客さんの家族のこととか全部把握していて、『そういえば最近息子さん独立されたなら、最近こういう車売れてるからディーラー紹介するよ』って(笑)」
長く通ってくれるお客様ほど、プライベートな情報が会話に上るようになってくる。きちんと信頼関係が築かれていれば、そこからさまざまな提案ができるようになる。
「そろそろ結婚とか、兄弟は何人とか、卒業入学みたいなイベントとか全部把握していることになる。情報の扱いが上手い美容師さんは、そういったタイミングごとに何か仕掛けているんですよ。それが今は属人的になっているけど、我々が支援することでもっとシステマティックにできるはずだと僕たちは思うんです」
髪を切るだけではなく、美容全般を任せられる存在。そして、ライフスタイル全般に寄り添い、提案してくれる存在へ。美容師、美容室に期待される価値は、移り変わりつつあるようだ。
POINT ・ 美容師は「美容」のプロへ・ 美容師は「生活全て」のハブになる |
COVID-19感染拡大をきっかけとした社会の動きのなかで、美容業界の構造もまた大きく変わろうとしていると鈴木は語る。
「今回のコロナの影響で、今まで利用しなかった多くの人がUberEatsやAmazonなどオンラインサービスを利用して、その利便性を体験しました。人は一度体験した便利さは忘れませんし、基準がアップデートされます。美容師さんもオンラインでサービスを提供して感謝される。この感覚を忘れないと思いますし、そういう形でもお客様との関係性を作っていくべきだと考えるはずです。流通の部分でも、今までディーラーさんたちはお店に足しげく通うことで価値を出していたのが、今回コロナで会いに行けなくなったことにより、彼らもオンラインにシフトする必要性をより感じたはずです。そうなってくると、メーカーの販路も変わっていくかもしれない。業界全体の構造が変わる大きなきっかけになると思っています」
美容師、美容室の変化とともに業界の構造も変わっていく。
業界の新たな可能性が見出されつつある今。果たして美歴は、そこでどんな役割を果たしていくのだろうか。
「カルテを通じて、コミュニケーションが取れることは一つの機能でしかなくて。お客様に○○な体験を提供して、再度来店したくなってもらいましょう!と提案していきます。ITを使えばもっと簡単に、思いがけない感動体験を届けられる」
美歴は、美容師とお客様のあいだの架け橋になる存在だ。ただカルテを電子化するだけではなく、新しい顧客体験を創る上での仕組みを提供することまでが同社の存在価値となる。
「たとえば、彼氏が気づかないようなことにも気づいてくれる美容師さんがいたら、嬉しいじゃないですか。そういう感動体験を作りたい。やっぱり僕は、サプライズが好きなんですよね(笑)」
美容師、お客様、そして美容業界全ての認識が変わっていき、新しく前に進みはじめる。美容師はもっと価値を生み、評価される存在になっていく。未来その行く先を、美歴が導いていく。
POINT ・ 業界の構造が変わる・ 美歴は感動体験を創る |
2020.08.14
文・Focus On編集部
鈴木 一輝
株式会社美歴 代表取締役社長
1979年生まれ。埼玉県出身。東京農工大学卒業後、株式会社アルバイトタイムスなどで営業、Web企画、マーケティングに従事したのち株式会社パイプドビッツへ入社。執行役員マーケティング室長として、グループ内で複数の新規事業立ち上げに参画。2011年にスタートした美容電子カルテアプリ「美歴」にて、2016年3月、パイプドHD株式会社100%子会社として法人化。株式会社美歴の代表取締役社長に就任した。
連載一覧 前編 | イントレプレナーの成長法則 中編 | 社内起業家に送る ビジョンと思いの結び付け方 後編 | 美容室はどう変わっていくか? 01 【社会変化】お客様との繋がりが全ての起点 02 【新しい価値】ライフスタイルに寄り添う 03 【未来】美容室だけでなく美容業界の構造が変わる |
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髙橋史好
concon株式会社  
代表取締役/CEO