Focus On
江口亮介
株式会社TERASS  
代表取締役CEO
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or根底にあるものは人と人。それが組織を、社会を動かす原動力になるのかもしれない。 シリーズ「プロソーシャルな距離」について |
02 【上層との関係性】トップとナンバー2の関係が組織の範になる
経営、部署、チーム……組織にはさまざまな単位の集団があり、リーダーがいる。トップの最も近い場所で力を発揮する「ナンバー2」として活躍する人に共通項はあるのだろうか?
「この人がいれば絶対に数字はどうにかしてくれるっていう心強い存在であること。どんなに理論的であったり、人が良かったり、スキルが高かったりしても。まずそこって絶対条件だと思うんですよ」
トップセールスとして数々のタフな経験、組織運営の最前線にある葛藤をくぐりぬけてきた飛田は、あくまで物腰柔らかに語る。
半端な若僧だった新人時代の自分を、全店のうち売上1位を争うような店舗のナンバー2へ。ビジネスマンとしての自分を鍛え上げてくれたナンバー2という立場には、人一倍思いがある。そんな飛田が何より重要な力として語るのが、数字の信頼だ。
「たとえば、チーム全体の売上目標を達成すること。それってチームにとっては絶対条件じゃないですか。ナンバー2自身が売上の核として、責任者の補佐をして、精神的にも売上的にも頼れる存在がいるかいないか。その人間がいるということが、一にも二にもとても安心できる」
数字をつくり、組織に安心をもたらすこと。基本中の基本ともとれる話だが、そこには精神論の世界にとどまらない現実的な影響力があるという。
― ➀組織が前向きになる ―
「我々の場合はものづくりの仕事なので、当たり前ですけど、受注しない限り完工(工事の完了)はないんですよね。そういった入り口(受注)をいかに作れるかっていうことができていると、スタッフの心持ちが変わってくる。先々の見通しが立つわけです」
先陣を切って売上を立てる人がいる。それだけで先の予測が立ち、停滞していた組織も少しずつ前を向きはじめる。目下つらい状況があったとしても希望が見え、行動が生まれる。そうして実際に目標を達成する。
「仕事がない日よりも、仕事があってちょっとどうしようっていう嬉しい日の方が多くなるわけで。そうすると大変でも前向きになって、それが活力になって、そうして組織が活性化していくのだと思うんです」
目に見える数字という結果があるからこそ、活力は引き出され、やがて活気あふれる組織になっていく。
― ②トップの発言力が増す ―
「数字面で絶対的に頼れる存在がいることで、責任者に真の発言権ができると思うんですよ」
組織において本来は誰しも発言権がある。しかし、トップが引け目を感じずに堂々と発言ができる心理状態は、数字の達成があればこそつくられるものである。
「トップに元気を出して意気揚々と仕事してもらえる。そうやって押し上げていくことによって、さらにやりやすい土俵ができていく。もっと大きな仕事をしてくださいじゃないんですけど、そっちをやってほしいが故に『数字のことは自分がやるので』と言える状態にする」
トップの仕事は、未来を描くことにある。だから、目の前の数字の心配はナンバー2が引き受ける。トップにはより大きな仕事に時間を割いてもらえるようにする。
根底にあるのは、何もかも完璧な人間はいないという考え方だ。所詮トップに立つ人も弱い、一人の未熟な人間である。だからこそ、最も近くで支えるナンバー2は、その負担の一部を肩代わりできる力を備えている必要がある。
完全ではないからこそ、人は相互に信頼関係を築き、支え合っていく。数字のことは自分がなんとかする、だから心配しなくていい。その言葉を信じられる存在がいることにより、トップは組織を前進させる本質的な思考に集中できる。
そうした信頼関係が、組織をより強固なものに変えていくのだろう。
POINT ・ ナンバー2の絶対条件は、数字に信頼がおけること |
02 【上層との関係性】トップとナンバー2の関係が組織の範になる
業績が振るわない店舗の再建含め、現在までに10回ほど。あるとき振り返ってみれば、これまで自分がナンバー2を務めた支店の責任者は、その後例外なく昇格していることに気がついた。
「途中で気づいたんですよね、ナンバー2って本当に大事だなと」
そう語る飛田にとっては、原点とも呼べる時代がある。まだ営業として鳴かず飛ばずだった自分をそれでも人として信頼し、新規出店店舗のナンバー2に抜擢してくれた人がいた。
「僕、21歳のときに新人でOKUTAに入社して、ちょうど3年目くらいまでの間に実は2回くらいクビになりかけているんですよ。結構やばいなという瞬間があったんですけど、それを拾ってくださったのが、今、取締役常務になっている森田隆之なんです」
まるで兄貴分のように、仕事に飲みにと面倒を見てくれた先輩であり、現在はOKUTAで取締役常務を務める森田との絆。そこには、ナンバー2はいかにトップとの関係性を築くべきかという問いに対するヒントがありそうだ。
「今思えばたくさんの良い人に出会えて、面倒を見てもらって、支えられて自分があったなって思えるんですよね。それって受け身でできたかっていうと、たぶんそうじゃない。ただ、可愛がられたんだと思うんです」
可愛がられるとは、単に猫可愛がりされることではない。いまだ成果がなくても、人より不器用なところがあるとしても、特別目をかけようと思わせる何か。本気さのようなものかもしれない。そう感じさせる部下には、もっと与えたいという感情が自然と湧いてくる。
「(可愛がられる存在というのは、)やっぱり素直で前向きな子ですよね。素直だからスポンジみたいに吸収していく。で、前向きだから常に自責で物事を考えているんですよ。本人が意識してるしてないにかかわらず。やっぱり他責にする人って後ろ向き発言で、それで仲間が増えて負のスパイラルに入ると思うんですけど」
素直で前向きな人は、向上心がある。可愛いと思えばこそ、厳しい経験もさせつつ早く成長させてやりたいと思う。自分が見えている世界を早く見せてあげたい。あるいは、それ以上にさえなってほしい。そう理屈じゃなく思うものであるという。
「ある意味ひいきされるわけですよ。僕はひいきってすごく良いと思っていて。平等と公平で言うと、ひいきは公平だと思うんです」
たとえば、宴会の席でお酒を飲む人も飲まない人も、全員平等に割り勘にする。これは平等ではあるが、公平ではない。与えられる側の差異を考慮することで公平は実現する。仕事も同様に、積極的にひいきされるべきであると飛田は考える。
「そういう意味で言うと、仕事ってひいきされてなんぼ。良い案件が回ってくるのも、そいつに見込みがあるから。特別厳しく指摘されるのも見込みがあるから。可愛がってもらえる人間になれるかは大きいと思うんですね」
限られた機会をつかみ、成果を出す。そこには運の要素があることも否めない。飛田自身も偶然拾ってもらったことが現在に繋がっている。そうでなければ、今頃とっくに会社を辞していたかもしれない。
しかし、そもそもチャンスとは、準備がある人にだけ訪れるものである。機会を最大化するための準備はあった方がいいだろう。
「(ナンバー2にしてくれた森田とは)方法論でぶつかることもありましたよ。2週間口きかないとか。で、わーってメールで来たから1千文字くらいで返したら、倍くらいで返ってきて。さらに5千字くらいで返したら、最後『了解』って2文字返ってきたみたいな(笑)。そんな時期もありました」
目的は同じ。ただし、とるべき手段については意見が食い違うこともある。そんなとき飛田は、とことん腹を割ってぶつかってきたと振り返る。
「そういうことの方が、僕は分かりやすかったんでしょうね。細かく言われるよりも、飲み連れてって喋らせてもらって、本音でどんってぶつかる。うまく活かしていただいたと思うんです。照れくさいですけど、男が男に惚れる世界っていうのがあるんだなと、初めてそのとき知ったんですよね」
恐れず意見はぶつけてみる。結果として自分が間違っていたのなら謝ればいい。そこで話し合うことによって、お互いに育っていく部分があるほか、新たな発想が生まれることもある。
衝突はできれば無い方がいいものではあるが、きちんと同じ土俵に立ち、お互いに対する深い理解の上で意見を交わすことができる関係性こそが、トップとナンバー2のあいだには求められている。同時にそれは、後進のためにもなるものだ。
「そんなトップとナンバー2の言動を見ているメンバーにも、『あそこの絆深いな、いいな、ああなりたいな』と思ってもらえるようにする。イエスマンじゃなく、自分で考えて話していると。それにより、組織を引き上げていくことにも繋がってきます」
仕事にオーナーシップを持って、主体的積極的に働く姿。自らの中に行動規範を定め、それに沿って行動する姿。憧れられるような範を示すことにより、メンバーが自ら考えて動くことを是とする風土をつくっていける。
POINT ・ 可愛がられ、与えたいと思われる存在になる・ 臆せず本音でぶつかり意見を交わす ・ 主体的に考え行動する姿を範として示す |
マネジメントするメンバーとの関係性はどうだろうか。大切なポイントは3つあると飛田は語る。
「僕のなかで10年くらい変わらない鉄則がありまして。3つの順序があります」
「兎にも角にもちゃんとビジョンを見せることが最初だと思います。ビジョンがないと、この船はどこに向かっているのかが分からなくなりますので」
どんなに苦境に立たされても、どんなに凹んでいようとも、リーダーたる立場の人間は先のビジョンを見せつづけなければならない。今が大変でも、ここを乗り越えればきっと道は拓ける。職位が上がれば上がるほどその負担は重くなるが、大前提として意識すべきものであるという。
■【鉄則②】濃くかかわる
「次は、そのためにどうやってメンバーとかかわっていくか。ビジョンを実現するために、掲げただけで進むのかというとそうじゃない。人には心がありますから、やっぱりぶれないように、バイオリズムもありますからね」
誰しも気持ちが上向きのとき、下向きのときがある。いずれのときでもコミュニケーションを取って濃い時間を共有することは、絆にもなると飛田は考える。
「ある種泥臭いかもしれないけど、絆みたいなもので繋がっているチームって強いと思うんですよね。少なくともうちはそういう会社ですね。どんなに優れた仕組みを作っても、どんなに良い制度があっても、やっぱりそれを使う人たちの心の在り方っていうのがちゃんとしていないと、組織って崩壊していくと思うんです」
どんなルールも仕組みも、その成否は運用する人の心に左右されるものである。より良い結果を望むなら、人と人を繋ぐコミュニケーションは欠かせない。
人と人のかかわりと組織文化こそが、毎日の物事を進めていく。
もしも300人の社員がいる会社で、300人全員が1つでも現状を良くする提案をしたとしたら、大きな力となり得る。
ルールは変えるためにあり、最適化しつづけるためには、個々が考え発信できなければ何も変わらない。会社でも、社会においてもそうだろう。
環境は選ぶものではなく、作るものである。それを組織の共通認識化させる必要がある。議論が活性化されればされるほど、より良い環境はつくられる。
■【鉄則③】バランスを取る
「あとは、全体を見ながら選択と集中すべきところを判断する、バランスを取ることです。限られた資源のバランスをどんな風に整えるか。よく言っていたのは、お皿を回しているような感じですね」
皿回しでは、皿を回す手は止められない。止めれば皿は落ちて割れてしまうからだ。回しつづけることが求められるが、その皿はいつも右に左に傾いてしまうため、ギリギリでもバランスを保ちつづける必要がある。組織も同様であるという。
「トップってメンバーの前で言えることと言えないことがありますよね。皆の前ではこういう風に言わざるをえない。でも、楽屋話すると……みたいなことがあったりする。それを紐解いて咀嚼すると真意はこうなんだよとか、だからお前にはこうして欲しいんだよということを分かりやすく伝えるのはナンバー2の役割だと思いますし。逆もあると思います」
トップとナンバー2。時と場合により役割を交代しながら、一方が他方のコミュニケーションをフォローし、補完し合う。そうして真に伝えるべきことを伝えていくことができるのも、1人ではないからである。
「全体のバランスをどう取るかっていうのは、構成するメンバーそれぞれの性格、性質にもよるとも思います。なんか1人活気のある子が入ると、新人なのにそれだけで組織が活性化することもあるでしょうし。責任者が変わったら全く違う会社になったように感じることもあるでしょうし」
会社を家族に例えた場合、トップが親で、兄や姉をナンバー2とするならば、父親母親だけでは子供の面倒を見きれないこともある。兄や姉が下の子の面倒を見つつ、必要な情報は親にも共有する。そうして初めて全体は円滑に回りだす。
立場の異なるそれぞれが役割を果たし、その上で全体のバランスが取られてこそ組織は成り立つ。
POINT ・ どんなときもビジョンを見せる・ 濃くかかわり対話する ・ 全体のバランスを取る |
組織への影響力を持つのは、何もナンバー2に限る話ではない。
多かれ少なかれ、なおかつ良くも悪くも、組織に属する人には誰しも変化を起こす力があるのだ。
なかには実践や結果が伴わないまま、後ろ向きな見方ばかりを主張する人もいる。そのような人が組織内にいる場合、どのように考えればよいのだろうか?
「神輿は担がれるためにあると思うので。極端な言い方ですけど、担ぐべき神輿でなければ自分がその神輿になるしかなくて。そうするつもりがないんだったら、あまり言ってはいけないと僕は思うんです」
たとえば、役職もついていない末端の社員から、組織や上司への不満が上がってくる。そうして批判できるのは、ある種立場上の特権でもある。しかし、あなたの人生はそれでいいのかと飛田は問う。
「じゃあそんなに言うなら明日からあなたにやってもらえるのかと、それができないから末端なのであって、まだまだな立場なのであって。そういう風に分からないことをどうやって分かるようにしてあげられるかっていうのは、これをやれば絶対うまくいくとかっていう鉄則なんかないですけど、やっぱりそれは日々かかわってコミュニケーションして刷り込んでいく。信頼関係でしかないと思いますね」
もちろん信頼関係とてそう簡単に築けるものではない。時間を惜しまず、絶妙なバランスを取りながらコミュニケーションを重ねていく必要があるだろう。
「やっぱり職位が上がれば上がるほど孤独にもなっていくし、責任も重たくなる。ストレスも多くなって大変だと思うんですけど。そういうことも時には話してあげなきゃいけないとは思っています」
完全なリーダーは存在しない。社長だってそうである。誰もが不完全な1人の人間である。
だからこそ、不完全な力しか持たない新人だから無関係だと言える話でもない。実力で示すことが難しくても、ひたむきさや真面目さ、誠実さは行動で示すことができるはずだ。
新人・ベテラン、年齢やキャリアを問わず、会社という1つのコミュニティをより良く変えていく機運を高めるために行動を起こす。
ナンバー2は、そんな組織の一員として在るべき姿を体現すべきなのだろう。
2021.10.06
文・Focus On編集部
飛田 恭助
一般社団法人リノベーション専門学校 代表理事
東京都出身。リフォーム業界を黎明期から牽引してきたリーディングカンパニー、株式会社OKUTAにて23年勤務。常にTOPの成績を残し、3年連続含む5度のMVPを受賞するなど、同社における営業の最高位の称号を保持。7年間の支店責任者やエリアリーダーなど複数店舗のマネジメントを兼務し、その後執行役員に就任。経営面にも携わりながら、採用から教育・育成のスペシャリストとして手腕を振るい、2018年リノベーション専門学校を立ち上げ代表理事に就任。Off-JTのみならず実践的なOJTにも定評がある。
https://renovation.school/
https://www.okuta.com/
>>次回予告(2021年10月13日公開)
『後編 | 業界の健全な文化継承のために必要なこと ― リノベーション専門学校設立に寄せて』
リフォーム・リノベーション業界の黎明期から市場を切り拓いた企業に勤め23年。トップセールス、人材開発責任者として培われたノウハウと教育論を業界の未来のために還元すべく、教育・コンサルティング機関を設立した。そこにある思いとは。
連載一覧 前編 | 組織の支柱となるナンバー2の思考法 01 【前提】ナンバー2の絶対条件 02 【上層との関係性】トップとナンバー2の関係が組織の範になる 03 【下層との関係性】組織を引き上げる3つのポイント 04 【普遍の心構え】神輿は担がれるためにある 後編 | 業界の健全な文化継承のために必要なこと ― リノベーション専門学校設立に寄せて |