Focus On
平田伸行
ハナマルキ株式会社  
取締役
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or昔から人を笑わせ、楽しませることが好きだった。お茶の間に笑いを届けるテレビ番組づくりを夢見て上京した青年は、芸能界と人材業界を走り抜けた。ホリプロを経て、マイナビでは入社以来7期連続表彰、そして当時最年少営業部長へ。一見すると華々しい経歴のようだが、実は、長いあいだ「落ちこぼれ」と呼ばれてきた過去をもつ。
「人材×エンターテイメント」という異色のキャリアを武器に、若年層の適材適所を実現し、日本を活性化させていく。厚生労働省の中小企業経営力向上プロジェクトである「経営力向上計画」では所管第1号として認定されたDiG(ディグ)株式会社、代表の守岡一平が「等身大の自分であること」について語る。
目次
黒いリクルートスーツに、無難な黒髪、面接対策のマニュアル本。不慣れなビジネス街で、不安そうな顔をして歩く就活生たち。そんな「就活」の戦闘服を身にまとい、憂いや希望を人々の喜びに変えるアイドルがいる。
就活アイドル「キチョハナカンシャ」は、多くの大学生にとって、不安や焦りの種である就職活動を、エンターテイメントの力で明るく楽しいものに変えようとする。メンバーは就職活動中の現役女子大学生たち。アイドルらしく歌って踊り、なおかつ等身大で就職活動に励む彼女たちの姿は、観る人に大きな勇気を与えることだろう。
大手芸能プロダクションであるホリプロから、人材業界大手のマイナビへ移り、同社の出資を受け独立した。DiG株式会社・代表の守岡氏は、異色の経歴をもつ。
マイナビ在籍中は、ほかの追随を許さない営業成績でトップを走り続けた。7期連続で個人・部署双方の成績で表彰され、入社4年で同社史上最年少の営業部長となったほか、守岡氏が独立するタイミングで起業支援制度がつくられた。
「僕は基本的に、いままで所属していたどの組織にも感謝してます。どれ一つ、もう一回やり直せたとしても、やらないという選択肢はないですね、かっこつけて言うと(笑)」
人材とエンターテイメントを掛け合わせ、日本を活性化させていく、守岡氏の人生とは。
人材とエンターテイメントが融合した会社、それが守岡氏の描く会社の未来だ。「楽しい」「おもしろい」を生み出すエンターテイメントの力によって、日本の人材市場を活性化させ、日本をよりよい市場にしていく。
少子高齢社会で、2025年には583万人分の労働力が足りなくなるといわれる日本。現状のままでは、GDPを維持できなくなる未来が待っている。現在、日本の労働生産性は主要先進7ヵ国中最低であり、OECD加盟35ヵ国中でも22位であるという。日本人一人一人の労働生産性が問われる。(*最下部URLより)
「いかに少ない人数で、いまのパフォーマンスを出せるようにするか考えたときに、それぞれの人生で寄り道はあんまりできないなと。だからこそ、ファーストキャリアはすごく大事だと思っていて。新卒のミスマッチを減らし、『適材適所』を実現する。それを僕が手伝うことができればと思っています」
新卒という貴重な労働力が最大限能力を発揮できるようになることで、長期的に見て、日本人全体の労働生産性は向上していく。
「もともと日本は資源が無いなかで、僕たちは高度経済成長でいまの日本をつくってくれた方々の子孫ですよね。だから、その未来をつなげ、次の時代をつくっていくことは、僕らの責任だと思っています」
自分が人生を振り返り、できることは何かを考えた。「労働力」という限られた国の資源を活かし、いかに日本を盛り上げていくことができるか。守岡氏の人生をかけた挑戦が、そこにあった。
誰もが自分らしく輝きながら働く未来のために、新卒紹介サービス事業を軸に、若年層の「適材適所」を追求していくDiG株式会社。人の可能性・能力を見出す独自のメソッドを用いたキャリアサポートや、産業医と連携したストレス適性テスト開発といった科学的アプローチのほか、エンターテイメントの観点からも「適材適所」を実現していく。
“本気で内定を目指す、就活アイドル”がコンセプトの新感覚社会派アイドル『キチョハナカンシャ』も、その一つだ。グループ名は、就活生が企業説明会などで多用する「貴重なお話をありがとうございました」に由来しているという。
「就活って明るくあるべきだと思うんです。日本に古くからある会社のなかで、目立たないけど、なくてはならない会社がある。それを彼女たちによって、イメージ変革させるっていうのが、すごく大事だと思ってるんですね。マイナビやリクナビだと、記事を書いても絶対に就活生に刺さらないなっていう会社さんがあるんです」
楽しいところに人は集まる。それを守岡氏は、ホリプロ時代に学んだ。アイドルのもつ強力な明るいパワーは、日の当らない企業の雰囲気も、がらりと変えることができる。
「『キチョハナカンシャ』という女子たちが、がんばって就職活動する姿を通じて、いろいろな会社の実体や、生(ナマ)の就職活動情報をアピールしていく。そういった媒体をつくっていきたいなと思っています」
就活生という、同じ境遇にある身近な存在がアイドルとして活躍することで、「生(ナマ)」の就活情報を届けていくことを目指す。「内定をもらえばアイドルグループからは卒業する」そんなルールも、リアルな情報を楽しく伝える『キチョハナカンシャ』の姿である。
等身大で就職活動に励む彼女たち。きっとその存在が、“つらい”“暗い”という就職活動のイメージを払拭し、未来につながる人生の第一歩を、明るくポジティブに踏み出せるよう、背中を押してくれることだろう。
名門進学校、智辯学園和歌山中学・高等学校(以下、智弁和歌山)に入学した守岡氏は、長いあいだ「落ちこぼれ」の人生を歩んできたという。
「(地元で最高峰の)智弁和歌山中学・高校に行って、東大に行って、政治家になったら、夢の総理大臣になれるよ、と。それを母親があまりにも簡単に言うから、受験したんです。でも入学をゴールにしていた節があって、入学してから6年間、糸が切れたように勉強しなくなるんですよ」
夢はいつしか忘れられ、代わりに、仲間とバンド活動に明け暮れる毎日。大学受験期になって初めて、隣の仲間と同じように勉強しはじめた。それでも思うような結果がでない。仲間との能力の差に気づき、自分の限界を知った。
結局、第一志望校への合格は叶わず、浪人という選択肢を選ぶ。
「僕は(智弁和歌山で)『開校はじまって以来のバカ』だって言われてました。でも、そこに所属していたことによって、どこかで自分もできるんじゃないかと思うわけです。いわば『智弁和歌山』という制服を着てることによって、変な自信があったんですよ。智弁和歌山の中では落ちこぼれでも、ほかの高校の子には絶対負けるわけがないと」
京都の予備校で迎えた浪人生活。和歌山含め関西各地の高校から集まった新しい仲間と、寮での暮らしがはじまった。
「全員俺以下だ、という目線で見てたんですよ。『まじ一緒にすんなよ』と(笑)。すごく小さい人間だったと思います。で、彼らと嫌でも肩を並べて生活するんですよ。でも彼らは僕よりできるんですよね。本気で凹むんですよ」
ある程度まで学力は伸びたが、どうしても超えられない壁があった。何かを一つ覚えると、何かが記憶から抜けていく。結局そこでも、守岡氏は「落ちこぼれ」だった。
「本当この自分の6年間って、ユニフォーム着て勝手に自己満足してただけの人間なんだなって、すっごい思って。そこで初めて自分のことを、賢くない人間であるってことを悟るわけです。で、これはこれで一旦あきらめて、生き方探そうと思ったんです」
組織における「262理論」という考え方がある。人はどんな組織においても、優秀な2割、普通の6割、非優秀の2割に分かれるという法則だ。守岡氏の場合は、中学入学から10数年間、下2割でありつづけた人生だった。
大学に入学したとき、守岡氏には夢があった。「テレビ番組をつくって、自分が田舎に笑いを届けたい」それを叶えるため、テレビや芸能業界への就職に有利だと思ったことはすべて実行したという。
アルバイトはすべてマスコミ系一色にした。学生時代の努力の甲斐あり、所属タレントを使った番組制作も行っていた大手芸能プロダクション、株式会社ホリプロに入社することになる。しかし、そこで待っていたのは想像していた華やかな世界ではなく、特に厳しいと社内でもいわれる、大物タレントのマネジメント業務だった。
番組などへの営業活動に、人と人の調整をするタレントマネジメントの仕事。芸能界特有の細やかな気配りと根回しに、忍耐力が求められる日々。涙なしでは語れないほど、つらい仕事だった。そこでも守岡氏は、歴代はじまって以来の最低なマネージャーだと評判になる。
それでもマネージャーとして、担当のタレントにいかに「光」をあて輝かせるか、守岡氏は奔走した。
「たとえば、あるタレントは、歌がうまくて可愛い。でも、その人も一般の人より劣ってる能力はたくさんあるんです。ただテレビでは一部分をフォーカスして、多くの人の協力があって、ああやって輝いて見えるんです。人の才能って、一般の人でも出てないだけで、実はいっぱいあるんですよ」
特別な才能をもって完璧であるように見えるタレントも、短所を抱えている。ごく普通の一般人と何ら変わらないのだ。人の能力は人それぞれたくさんあるが、それが必ずしも表に出ているとは限らない。その能力が花開き、一人一人が輝ける環境へ導く。守岡氏が目指すビジネスの原点があった。
毎週木曜日21時~、FRESH!にてキチョハナカンシャTVの生配信がスタート。
第1回は2017年6月22日。MCには次長課長河本準一さん、マジシャンのYOSHIさんを迎える。
大好きなエンターテイメントで日本を活性化していきたい。そんな志を抱き走るなかで、「人」への光の当て方と輝かせ方に関心をもった。「人を輝かせ楽しくしていきたい」という思いを拡張してくれる場所を、「人材」という観点から提供してくれたのが、株式会社マイナビだった。
ここで、長いあいだ「落ちこぼれ」というレッテルを貼られ人生を送ってきた守岡氏に、転機が訪れる。営業を取ってくると、前職にはなかった賞賛の嵐があった。
「(営業成績は)7年間、プレイヤー、マネージャー、課長と、どのレイヤーでも上位2割でした。それまでの14年間、どのフェーズでも、どの組織でも『守岡一平は落ちこぼれだ』って言われつづけてたのが、『あいつは優秀だ』って、一言役員から言われたんですよ。これがやめられなくなっちゃったんですよね」
マイナビがもつ18000社のクライアントとの出会い。人と人との深い付き合い。社長の語る経営論。営業は毎日感動があった。
「『うーわすっげぇな、この人たち』と。正直、自分がマイナビでトップ取ってることが、言いたくもなくなるくらい恥ずかしくなるんですよ」
また、同時にこうも思った。
「トップを走ってきたから、マネジメントについては語れる。でも、経営について語れないことがコンプレックスになっていったんです」
社内ではトップにいた自分が、社会という、より広い世界のなかでは小さな存在だったと気づいた。守岡氏は自分がなすべきことの原点にかえる。「人には光を当てるべき場所があり輝かせ方がある。『人の能力』を最大化できる世の中をつくりたい」そんな独立への思いが加速していった。
「結局、僕が一番向いてる仕事は、営業だったんです。だけど大学のとき、僕が一番やりたくなかった仕事が営業なんです。自分がやりたいことと、世の中が求めてることって、乖離してるケースが多々あるんです」
人にはそれぞれ違った能力がある。上位2割にも、もちろん下位2割にも。さまざまな組織でそれを経験してきた守岡氏が行き着いた結論は、「適材適所」の重要性だった。
一方、社会に出る第一歩の場である日本の新卒市場は、決して明るいものではなかった。先行き不透明な日本経済は学生の不安を煽り、就活を苦にした自殺のニュースも取りざたされる。
誰もが等身大の自分で力を発揮し、輝ける社会。適材適所でそれを実現する。それを叶えるために、「楽しそう」「おもしろい」という感情を呼び起こし、就活を明るく楽しくする。そしてより「リアル」な情報を届ける。「人材×エンターテイメント」の組み合わせは最高だった。
2016年、守岡氏はいままで属した組織への感謝を胸に、「量才適所/新しい価値基準を創造し、すべての人の適材適所を実現させる」という思いを掲げ、DiG株式会社を設立した。
女子向け就活情報メディア「キチョnavi(http://kichohanakansha.com/)」を運営。
就活に役立つリアルな情報や、『キチョハナカンシャ』による企業訪問レポートなどを発信している。
常にエンターテイナーでありたいと、守岡氏は語る。
「僕は基本的に1商談のなかで、最低1回は笑いをつくりたいと思ってます。それはすべてのクライアントに対してそうです」
果たして、仕事を通じて自分に何ができるのか。相手からもらった貴重な時間に、自分は何を与えることができるのか考えた。同じ営業を受けるにしても、どうせ買うなら、誰だって楽しい人から買いたいに違いない。
「僕自身はキャリアとキャラが合ってるので、だから笑ってくれるんですよ。(DiGの事業のなかには)別に僕じゃなくてもできる仕事もあると思っています。だけど、自分らしい、DiGらしいことって何?って考えたときに、『笑い』って、やっぱりハマるんですよね」
名刺が変わっても、業種が変わっても、一人の人間としての自分は変わらない。常にエンターテイナーでありたい、そういった価値を生む会社でありたい。
「人によって得意なことや不得意なこと、限界があると思っていて。埋もれている才能を発掘して、伸ばしていくことが大切だと思うんです」
自分の等身大が「エンターテイナーであること」だったように。自分を偽るのではなく、等身大で生きること。そしてその等身大の自分が、最も輝ける仕事と出会い、才能を発揮すること。そうして誰もが笑顔になる社会をつくりたいと、守岡氏は願う。
YouTube上にはミュージックビデオのほか、企業の採用ブランディングに貢献するコラボPV動画、
バラエティ番組『就活しくじり先生』など、就活生向けに多数のコンテンツを配信している。
大切な人の誕生日をサプライズでお祝いしたり、テレビドラマで病気のヒロインが亡くなったり。人を感動させることや、泣かせることは比較的易しいのだという。
逆に、人間の喜怒哀楽のなかでも、最も揺さぶるのが難しい感情が、人を喜ばせ、楽しませる「笑い」だ。笑いのツボは人それぞれなので、10人中10人全員を笑わせることは相当困難になる。
「急に『いまから笑わせてみろ』って言われたらすごく難しいし、かつそれをビジネスでするって相当難しい。だからこそ、楽しそうだったり、笑ってもらえる仕事っていうのは、それだけで価値があると思うんです」
たとえるなら、10人いたら少なくとも5人6人が笑ってくれるビジネスを、守岡氏は描く。相手に初めて『キチョハナカンシャ』の話をしてみると、大爆笑になることはなくても、不快な気持ちで終わったこともないという。
彼女らの活動は、インフルエンサーの力を使って800名規模の集客を実現した次世代就活イベント「東京リクルートフェスティバル(http://tokyorecruitfestival.com/)」の共催にもつながり、そこでは多くの学生との出会いがあった。エンターテイメントは、学生と企業の架け橋になる。『キチョハナカンシャ』というコンテンツをつくり、人が笑顔になるもの、楽しいものを模索しつづけたことで、新たな就活の文化圏が創られた。
新卒という可能性に満ちた存在、その一人一人に光をあて、キラキラした未来へ導く。守岡氏の描くその道のりには、昔も今もこれからも、多くの笑顔が生まれることだろう。
2017.07.24
文・引田有佳/Focus On編集部
2017年6月18日に開催された東京リクルートフェスティバルでは、オープニングライブを担った。
「芸能」の原点は、はるか昔にまでさかのぼる。
石器時代、大自然の中で生きていた人間は、自然の力に畏怖を感じ、恵みをもとめ、神の存在を考えるようになった。その神に祈り感謝をささげるために、歌い、踊り、神々の世界と交流した。これが「芸能」の原点だという。
神に祈りを捧げるための「芸能」に携わる人々は、神に近い存在とされていた。しかし、時代とともにその概念は変化していく。
江戸時代に生まれた芸能の一つ「歌舞伎」は、庶民の文化から生まれた。「歌舞伎」という名は、現存する体制に背くこと意味する“かぶく(傾く)”に由来し、時代に合わせたエンターテイメントとして形作られ、世に送りだされた。それは単なる流行にとどまらず、時代にアンチテーゼをとなえ、新たな流れを生み出す土台となっていった。
このように芸能は古来から、豊かであるための祈りや、反骨心から生まれる社会への願いなどのパワーから生み出されるものであった。そして、社会・大衆をつぶさに観察し、「芸能」という形で表現することで、大衆の流れを創り出し社会の流れを変える力をもっていた。
芸能・エンターテイメントにはそんな強い力がある。人々の祈りや願いを表現することで、観る人の「喜怒哀楽」を呼び起こす。社会一人一人の「喜怒哀楽」を動かす力があるからこそ、流行となり社会を変えていくことができる。
「ああ就活生か」といった印象になりがちな、新卒の就職活動の象徴であるリクルートスーツ。それを身にまとい歌って踊る存在が、観るものを楽しませ、「かわいい」「元気をもらう」といった「喜び」の感情を生み出していく。その「喜び」はやがて一つのムーブメントとなり、就職活動を変え、日本の人材市場を活性化していくのだろう。等身大で生きる守岡氏の願いは、そんな「喜び」のムーブメントを創り、私たちを笑顔にしてくれるはずだ。
文・石川翔太/Focus On編集部
*参考
パーソル総合研究所(2016)「労働市場の未来推計」,< http://rc.persol-group.co.jp/roudou2025/ >(参照2017-7-23).
公益財団法人日本生産性本部(2016)「労働生産性の国際比較2016年版」,< http://www.jpc-net.jp/intl_comparison/intl_comparison_2016.pdf >(参照2017-7-23).
認定NPO法人ニューメディア人権機構(2009)「なぜ人は、歌い、踊り、演じるのか―『芸能』の起源について考える」,< http://www.jinken.ne.jp/be/meet/okiura/okiura2.html >(参照2017-7-23).
DiG株式会社 守岡一平
代表取締役
明治大学商学部商学科卒業。新卒にて株式会社ホリプロ入社。タレントマネジメントに従事。株式会社マイナビに中途入社し、新卒採用のコンサルティングに従事。500社以上の新規開拓を行い、当時最年少営業部長に抜擢。7期連続で個人だけでなく部署でも表彰される成績を残す。2016年DiG株式会社設立。代表取締役就任。