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後編 | サードプレイスとしてのオフィスという選択肢 — 築古ビルをおもしろい場に



築古ビルの再生により「はたらく場」を「好きな場」にする。提案するのは、社会のためのよい循環だ。

役目を終えた建物や空間の新たな可能性を探求する築古ビルの不動産再生で、場づくりからサスティナブルな社会に貢献していく株式会社LOOPLACE。セットアップオフィス「gran+」シリーズをはじめ、同社では既存の場を活かしおもしろくするというコンセプトを掲げ事業を展開する。

代表取締役の飯田泰敬は10代から内装職人としてキャリアを歩み、21歳で独立。2017年には、京セラ・第二電電(現・KDDI)創業者である稲盛和夫氏が主宰する経営者団体「盛和塾」において稲盛経営者賞を受賞した。

本連載では、建築不動産領域から人の幸福に寄与する事業を追求してきた飯田泰敬に「経営が世のため人のために変わる瞬間(前編)」、「サードプレイスとしてのオフィス(後編)」について伺った。



 シリーズ「プロソーシャルな距離」について 
世界が今、こういった状況だからこそ、「知恵」を繋げたい。
私たちFocus Onは、社会のために生きる方々の人生を辿って物語と変え、世の中に発信して参りました。そんな私たちだからこそ、今届けられるものを届けたいと考えております。社会に向けて生きる方の知恵の発信により、不透明さを乗り越えるための「知」の繋がりをつくりたい。それがどこかの、どなたかにとっての次へのヒントになれば。そう考え、本シリーズを企画し、取材のご協力をいただいております。








飯田泰敬に学ぶ サードプレイスとしてのオフィスという選択肢


01【新たな選択肢】コロナ時代の「オフィス」の捉え方

02【これからの社会に必要なこと】築古コンパクトビルの価値を再生する




01【新たな選択肢】コロナ時代の「オフィス」の捉え方


1998年の創業以来、オフィスや店舗をはじめとする空間づくりを手がけ、建築不動産の視点からこれからの社会を見据えていくLOOPLACE。生活様式やワークスタイルの変化が叫ばれる今、最適なオフィスの在り方はいかに変化しつつあるのだろうか。


「すごく騒がれているんですけれど、自分はそんなに変わらないんじゃないかなと思っているんです。元々あった大きな流れの中で、それが少し加速するとかはあったとしても、何か今までの流れが大きく変わるようなことはないんじゃないかと」


以前から続く大きな流れがあり、それは変わらないと飯田は語る。それでは、時代の流れはどこへ向かっているのだろうか。



■自然体でいられる場


「1つは、自然への回帰とか憧れみたいなものが、この時代とともにすごく強くなってきていると思います」


たとえば、心地よい陽気のある朝、思わず外で仕事がしたくなったとする。そんなときオフィスビル屋上にソファーの置かれた空間があり、さわやかな気分で一日の仕事を始められたらどうだろう。


ストレス社会と言われて久しい現代においては、日々心身の不調と闘いながらはたらく人も多い(仕事で強いストレスを感じると回答した労働者の割合は約6割*に上るという。*厚生労働省調べ。できるだけ自分自身が自然な状態でいられる「はたらく場」は、変わらず求められているという。


「限りなくストレスフリーな社会とか、そういう場だったりがものすごく大切じゃないかなと思っています。(社内の人間関係などもありますが、)場づくりとしては、たとえばグリーンを入れて自然を感じられる環境にしていくとか。きちんとカチッとした執務室ではなく、リラックスできるけれども業務に集中できるような環境、場づくりが大事だし、それは変わらないと思っています」


いわゆる会社でも自宅でもない、サードプレイスとしてのオフィスの在り方。画一的な空間ではない、はたらく個々に寄り添う場が今こそ必要とされているのではないかと飯田は語る。


「僕が一番やりたいなと思うのは、『一軒家オフィス』っていうネーミングでやりたいんですよね。一軒家の玄関をガラガラって開けて、ただいまって靴脱いで入る事務所みたいな。リビングで仕事をして、疲れたら少し寝てくるって言って上の寝室に行ってね」


ちょっとした古民家や、趣ある縁側がついた家であれば尚よいかもしれない。そのような唯一無二の魅力を備えたオフィスは、高い賃料でも入居を希望する人はいるはずだ。何よりそこではたらく人が「場」を好きになり、幸せを感じやすくなるだろう。



■繋がれる場


「もう1つは、みんながソーシャルディスタンスで場を離そうとしようとしているなかで、逆にそういうときだからこそ、人と人とのコミュニケーションの価値が高まっていくんじゃないかなと思っているんですよね」


人と人の結びつきをいかに作るか。どのようにコミュニケーション環境を作るのか。そこに制約が課される今だからこそ、改めてコミュニケーションの価値が見直されている。はたらく人の繋がりを描き作られたオフィスは、今後ますますニーズが高まってくる。


「(うちでオフィスを作るときは、)こういうものがほしいと言ってくれる人にだけ刺さればいい。一般大衆受けしなくてもいいと思ってるんですよ」


たとえば、緑化した屋上でバーベキューができたり、畳の部屋でくつろげたり。理想の繋がり方はそれぞれであり、正解は1つではない。時代ごとに企業ごとに、あるいは企業のフェーズごとに求められるオフィスの姿は変わるだろう。


変わらない価値は大切にしつつ、その1つ1つを紐解いていくことが重要になる。


オフィスの在り方には今以上の可能性が眠っている。もっとおもしろく、好きになってもらえる場にできる。空間や場というものは、人を幸せにできる。LOOPLACEはその豊かな未来を解放し、人と社会にとっての幸せを真摯に考えつづける。



 POINT 
・ 自然体でいられる場としてのオフィスが求められている
・ 人と繋がれる場としてのオフィスが求められている
・ オフィスはもっとおもしろい場になる




02【これからの社会に必要なこと】築古コンパクトビルの価値を再生する


さらに、これからのオフィスを語る上で避けて通れない問題がある。


東京23区にあるオフィスビルのうち、9割以上を占める中小規模ビル。その大部分が、バブル期やそれ以前に建築された築20年から35年ほどの物件、いわゆる築古コンパクトビルだ。


建物の老朽化による修繕コストの増加や賃料低迷など、何もしなければその価値は低下の一途をたどる。同時に近い将来、そんな不動産に囲まれることになる街や地域自体のブランド力に影響が及ぶことも懸念されている。


LOOPLACEの事業では、このような築古コンパクトビルのポテンシャルを見極め、新たな価値を付加する「既存価値の再生」に重きを置いている。


同社が手掛けた「gran+ ASAKUSABASHI(グランプラス・浅草橋)」

浅草橋の問屋街にあった元雑貨販売会社の築24年の5階建てビルを再生した



■既存価値の再生とは何か


― ➀収益性の再生 ―

「まず、使う人にとっての価値を高めることによって賃料が上がって、賃料が上がることによって、不動産の価値っていうのは資産価値として上がるんですね」


不動産業界はいわゆる情報産業であり、良い物件は時間と手間をかけなくても売れる。大手などにおいては、わざわざ築古コンパクトビルにお金と時間をかけて工事するインセンティブは生まれにくいほか、修繕するとしても表層にとどまることが多いという。


しかし、そのままでは物件の価値はいつまでも高まらない。LOOPLACEでは役目を終えた建物を、エリアのニーズに合う用途に転換させたり、元々ある「場のストーリー」や空間の在り方から落とし込んだデザインに仕上げることで収益性を高めている。


― ②技術的な再生 ―

「築古と言われているものの大半は、『検査済証』がない物件が多いんです」


全ての建築物は、建築基準法に定められた検査を受けることが義務付けられている。設計段階、工事途中、工事完了後の検査という3段階全てで承認を受け初めて「検査済証」は交付される。これにはきちんと確認申請を出した図面通り、法律を遵守し建てられていることを証明する役割がある。


問題となるのは当初確認を受けた建築申請から、工事段階で床を増やすなど構造を変えてしまう場合だ。いざ売却するとなったときに「検査済証」のないことが問題となってくる。


「売買のときに検査済証がない物件は違法建築かもしれないとなって、ものすごくリスクが高くなるということで、価格がすごく落ちるんですよ。それを再生するのは結構手間がかかって難しいんですけれども、当時にさかのぼって自分たちで図面を作成したり、違法建築があればそれを減築したりして是正する」


そのような技術的再生を可能にするのは、同社の企画・設計・施工から運営までが社内でワンチームとなる一貫体制だ。きちんと建築当時の法律に則り建っていることの証明ができれば、建物としての価値は再生できる。



■成長企業のニーズに応え、地域社会に貢献する


「あとは、セットアップオフィスというものもあります。オフィスって借りるとき、だいたいエレベーター降りると何もないただのがらんどうで、自分たちで工事会社を探して頼まないといけない。それに対してセットアップオフィスでは、デスクと椅子とか什器とか必要なものをあらかじめセッティングした状態でお引渡しするんです」


成長速度の早いベンチャー・スタートアップ企業においては、人員増加に伴うオフィス移転のペースも早い。その度に原状回復義務が発生し、コストがかかるのは通例だった。入居時の工事費と退去時の原状回復費を削減し、細部までクリエイティブな空間をつくることはそれだけで付加価値を高める一助となる。


「その物件出身のスタートアップが、世の中に爪あとを残すような革新的なサービスを生み出したら、その会社だけでなく建物やエリアにも価値が加わる。そういったところもLOOPLACEが築古中小ビルの再生に取り組む理由の1つです」


1つの「和」から、より大きな好循環となる「輪」へ。同社のロゴマークに込められた思いの通り、LOOPLACEは場づくりから社会に良い循環を生み出し、変えていく。


ただ建てるだけ、ただ修繕するだけ。そうではなく、サスティナブルな未来の社会を見据えながら、不動産という点を面に変える。役目を終えた既存の価値を、次世代への価値へと繋げる。


既存の場をおもしろく。同社から生まれる波紋は今、着実に広がりつつある。



 POINT 
・ 「既存価値の再生」により、人・企業・建物・地域社会に良い循環が生まれる




2021.08.05

文・Focus On編集部




飯田 泰敬

株式会社LOOPLACE 代表取締役

一級建築施工管理技士。北海道出身。21歳で専門工事業者として独立、1998年に同社の前身である有限会社成和工業を設立、後に株式会社成和へ商号変更。大手ゼネコンや店舗内装などの下請け工事業を経験し、2008年にデザイン設計業務へと幅を広げ、2016年に不動産再生事業へ参入。gran+(グランプラス)シリーズの販売を開始し、2020年1月株式会社LOOPLACEへと商号変更、代表取締役として現在に至る。自宅にも作るほどのサウナ好き。

https://looplace.co.jp/




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